投稿日:2020年09月03日
住宅ローンの返済方法には、毎月決まった支払いとは別に、繰り上げ返済という手法もあ
ります。これを実行することで、完済する時期を早めたり、毎月の支払額を抑えたりする
ことも可能で、生活にゆとりが生じます。
ただし、繰り上げ返済をするタイミングによっては、こうした恩恵が小さくなることもあります。繰り上げ返済による効果をより大きくするには、どのタイミングが適しているのかを検証していきます。
ここで改めて、繰り上げ返済の仕組みについてご説明します。
繰り上げ返済とは、返済期間中にまとまった金額を前倒しで返済することです。一般的にはローン残債の一部を返済するパターンが多いですが、全額を返済する「繰り上げ完済」という手法もあります。
繰り上げ返済をしたお金は、元金の返済に当てられます。元金が減れば、本来支払うはずだった利息も減らせるため、返済負担を軽くできるというメリットが生まれます。
なお、契約時に保証料を一括払いしている場合、繰り上げ返済すると保証料の一部が返還されるケースもあります。返済期間や残債の額などにもよりますので、詳しくは借り入れしている金融機関に確認してみましょう。
繰り上げ返済によってローン残債が減ると、完済までの期間を短くできたり、月々の支払額を抑えられたりといったメリットがあります。返済期間を短くできるタイプを「期間短縮型」、毎月の支払いを抑えるタイプを「返済額軽減型」といい、契約者がどちらを選べます。
どちらを選ぶかは、完済時の年齢や現在の家計収支などを踏まえて検討することが大切です。
期間短縮型を選ぶメリットは、借入期間が短くなることから、利息の軽減効果が大きいことが挙げられます。トータルの返済額をより少なくできるため、繰り上げ返済をされる大半の方が期間短縮型を選ばれるようです。また、定年退職後も住宅ローンの支払いが続く予定の方は、繰り上げ返済によって定年後の負担を軽くできるといったメリットもあります。
一方、毎月の支払額は変わらないため、繰り上げ返済による負担軽減を感じにくいのがデメリットといえるでしょう。
「トータルの返済額を少しでも抑えたい」「定年までに完済したい」といった要望をお持ちの方は、期間短縮型が向いているでしょう。
返済額軽減型のメリットは、繰り上げ返済後すぐに毎月の支払額が少なくなるため、効果を実感できる点にあります。住宅ローンの返済額は家計の中でも大きなウエイトを占めますから、返済額軽減型を選ぶことで生活にゆとりが生じるでしょう。
ただし、トータルの返済額は期間短縮型の方が少なくできます。借入期間は変わらないため、利息を支払う期間も変わらないからです。なお、返済期間が短い人の場合、住宅ローン控除の節税効果が小さくなることもあるため、場合によっては返済額軽減型の方が家計負担を軽くできるケースもあります。
「教育費や介護費などが必要で家計を見直したい」「転職して収入が減ってしまった」といった方は、家計のやりくりがしやすくなる返済額軽減型を選びましょう。
繰り上げ返済は、返済期間中であればいつでも利用できます。一般的には、契約してから10年以内など早い時期に実行したほうが利息の軽減効果が大きくなるといわれ、実行のタイミングによって効果が変わる点も認識しておきたいポイントです。
一例として、100万円の繰り上げ返済を1回だけ行う場合、そのタイミングを契約から5年後、15年後、25年後の利息軽減額で比べてみましょう。なお、借入額は3,000万円、返済期間は35年で金利は1.4%とします。
■融資条件
・借入額:3,000万円
・返済期間:35年
・金利:1.4%(元利均等返済)
■利息軽減額
期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
契約から5年後 | 50万5,957円 | 22万4,571円 |
契約から15年後 | 31万0,968円 | 14万6,500円 |
契約から25年後 | 14万1,050円 | 7万1,617円 |
利息軽減効果の高い期間短縮型のケースで見ると、5年目は50万円以上の利息が軽減できるのに対し、15年目だと約31万円、25年目だと約14万円と、時間が経つほど効果が薄くなっていきます。返済期間も、5年目は1年4カ月の短縮に対し、15年目は1年2ヵ月、25年目は1年となります。
返済額軽減型の場合も同様に、時間が経つほど利息軽減効果は薄れるため、できるだけ早いタイミングで実行することが、効果を最大化するポイントなのです。
繰り上げ返済を行うことで、さまざまな恩恵が受けられる一方で、注意点もあります。以下の内容も把握しておきましょう。
住宅ローン控除は、年末のローン残高の1%を所得税などから控除する制度です。繰り上げ返済をおこなえば、ローン残高が減るため控除額が減る可能性があります。
10年間で最大400万円(長期優良住宅や低炭素住宅は最大500万円)の還付が受けられる制度だけに、繰り上げ返済で節税効果が薄くなるのは、もったいないことです。
借入額が4,000万円前後の方であれば、住宅ローン控除を優先し、繰り上げ返済は11年目以降に行うのがメリットを最大化する手法です。
それ以外の借入額の方は、住宅ローンの金利に着目しましょう。住宅ローン控除はローン残高の1%が控除されますが、ローンの金利が1%以上の方なら、控除期間中でも繰り上げ返済をした方がメリットは大きくなります。反対に金利1%未満の方は、住宅ローン控除による減税額の方が大きくなるため、繰り上げ返済をしない方がメリットは大きいのです。
ただし、住宅ローン控除による減税額は所得税や住民税の額にもよるため、ローンの金利が1%未満でも繰り上げ返済をしたほうが恩恵の大きいケースもあります。詳しくは、専門家などに相談してシミュレーションしてもらうと良いでしょう。
繰り上げ返済を行うと、手数料がかかる金融機関もあります。特に、窓口などで手続きをするケースや、全額を返済する繰り上げ完済の場合は、金融機関によっては1~5万円程度の手数料が必要なところもあります。
複数回の繰り上げ返済を実行したことで、利息軽減額よりも多い手数料を支払うことになれば、本末転倒です。フラット35やネットで返済手続きをするケースだと手数料は無料のところも多いですから、繰り上げ返済を何度も行う予定の方は手数料もチェックしましょう。
繰り上げ返済をした後に、家の設備が壊れて修理代が必要になったり、教育費や生活費が増加して支払いに困窮したりすることも考えられます。転職などで収入が減ることもあるでしょう。
基本的なことではありますが、予定外の出費や収入が減った場合でも生活にゆとりを持てるよう、ある程度の貯蓄は手元に残しておくことも忘れないようにしてください。
繰り上げ返済の利息軽減効果は、契約から10年以内に行うと大きいとされます。一方で、その期間は住宅ローン控除と重なりますから、どちらを優先するかといった慎重な判断を求められます。
繰り上げ返済をしたばかりに、手元資金が不足して生活が苦しくなっては意味がありません。家計状況も踏まえて、余裕をもって返済できる時に実行するのが、繰り上げ返済のベストなタイミングといえるのではないでしょうか。